『映画のタネとシカケ』
御木 茂則 著
2023年 玄光社
映画の撮影技師による、「映画がどんな技術を使って作られ、なぜ魅了されるのか」を解説した本です。
イラストと図を大量に使ってわかりやすくまとめられています。
映画の一コマ一コマをシンプルに表現しているこのイラストがとてもいい。
「日本では映画について、ストーリーや俳優の側面から話題になることが多いが、監督やスタッフが使う技術的な工夫も奥深い」と著者は書きます。
単にカットを絵にして並べるだけでなく、
同時に俯瞰図も入れ、カメラワークや映像の意図を紹介していきます。
良かった点をピックアップしてみました。
(※内容は変えず、文章を少し変えている部分もあります)
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・スピルバーグ監督は、音を消して映画を観ることを薦めている。
映像で物語を語ることを意識するために。
・それまで見えなかったサングラスの奥の目に、照明を足すことで主張を強くする。
・斜めの線がフレームの中にあると、人は躍動感や生命感を感じる。(構図の話)
・太陽の向きに合わせて撮影したショットを編集で組み合わせることで、カメラの影が入らないように工夫している。
・映画では効果音を後から加えるが、その場で録音したように聞こえる音も、ほとんどが撮影の後に録音をしている。
・優れた脚本で俳優が素晴らしい演技をして、撮影現場で迫力ある映像を撮っても、筋書きをなぞるだけの説明的な編集では映画が台無しになる。
・車の中の二人を、常に別々のショットで撮ることで、二人の間に明確な線引きがあることを表している。
・背景に映るものが雑然としているかシンプルに片付いているか、によって、登場人物の印象を演出している。
・スピルバーグは、物語の進行上で必要なシーンながらも中だるみしそうなときには、凝ったカメラワークをよく使う。反対に、物語で引っ張れる見せ場は必要以上に映像での演出をしていない。
・すべて曇り空の条件で撮影することで、映像のトーンが統一されている。
・デビッド・クローネンバーグ監督は、俳優の演出では、事前のリハーサルは行わず、撮影現場で俳優たちの意見を大切にしながら、引き出された演技を見てから撮り方を考えていく。
毎作品ごとに、クローネンバーグ一家と言える人々が集まり、フレキシブルに対応することで、クローネンバーグの演出は支えられている。
・『マッドマックス 怒りのデス・ロード』では、タンクローリーを鯨に例え、音に鯨の唸り声や潮吹きの音を利用している。
・動きを機敏に見せたり、攻撃の激しさを伝える部分は速いリズム(カット割り)で、状況を見せたり、位置関係をわからせる部分はゆっくり(長めのショット)でつないだり。戦いの決着をつける部分は、さらに速くつないだり。
・『ミュンヘン』ではスピルバーグは絵コンテは用意せず、ときにはリハーサルもなしでそのシーンに必要なショットを決めて撮っています。
この即興的な撮り方は、シネマ・ヴェリテ方式という名称で、60年代から70年代前半の映画でよく使われていた手法です。
即興でありながら、物語とカメラの動きが連動する見事なショットが撮れるのは、スピルバーグには多くの映画を演出した経験があり、仕事をしていないときには映像の研究を積み重ねているからです。
それはスポーツ選手が練習を繰り返して、技術を身体に染み込ませることと似ています。
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本書では70年代から20年代まで幅広く
有名な映画を取り上げているため、
どんな世代の人も楽しめる内容になっていると思います。
アナログな手法から現代の特殊機器に至るまで
取り上げているところもいい。
構図、カメラワーク、監督の演出法、音、編集の繋ぎ方など、
バランスの取れた題材を扱う構成にもなっています。
この本で学べたのは、
映画がこんなに考えられて、これだけ準備されてるよ、ということ。
著者はこうも語ります。
「私たち撮影者は映画を観てもらった感想で、映像を褒められたら失敗だとよく話しています。
画を作りすぎて陥りやすいのは、映画を無視して自分の技術を誇示した野心的な映像になることです」
少し大きめのムック本サイズです。